本記事は2022年3月に執筆したものです。
DTFプリントに関する最新の実績は以下記事にアップしております。
DTFとは「Direct To Film」の頭文字をとったもので、2020年頃より注目され始めた熱転写技術の一つ。
日本語に訳すると「フィルムへ直接転写する印刷技術」といえるでしょうか。
本記事では、DTFプリントの原理や利点について簡単に解説します。
そもそも転写印刷って何?という方はこちら
従来の熱転写との違い
従来の熱転写印刷と違う点は、以下の通りその転写方法にあります。
- 従来の熱転写
-
特殊な糊が付いているフィルム(メディア)に、デザインを印刷する
- DTFプリント
-
糊の付いていない樹脂製のフィルムに、デザインの印刷と糊付けを連続して行う
糊をデザインに沿って後付けすることで、糊の無駄遣いを防げるだけでなく、後述するカス取り作業が不要になり、印刷工程を大幅に削減することが可能です。
また、従来では素材やデザインに応じてメディアの種類を変える必要がありました。
一方、DTFであれば糊の種類を変えるだけで済むため、メディアのロスも削減できます。
専用の設備は必要になりますが、転写ならではの精巧なプリント性能を保ちつつ、作業効率の改善&資源の有効活用を叶える次世代の印刷技術、それがDTFプリントです。
DTFプリントの手順
以下、おおまかなDTFプリントの手順です。(松井色素化学工業所のプリンター「ARTJET」を参考にしています)
PCに専用のソフトをインストールしてプリンターと繋ぎます。
インクジェットでフィルムにデザインを印刷します。
インクはCMYKの水溶性顔料で、PETフィルムにのりやすい特殊な仕様みたいです。水溶性なので手に付いても落とせますが(とはいえ、服に付くと基本落ちません)、印刷直後はすぐにインクが落ちてしまうので、乾燥工程(STEP5)が終わるまでは触れないよう注意。
また、RGBではないのでデザインはCMYKカラーモードで作成しておくことを推奨します。
※カラーモードの設定については こちらの記事で解説しています。
STEP2の印刷直後、自動で白インクがデザインの上に塗布されます。
これはSTEP4で糊を塗布する際、白インクの上にのみ糊パウダーが付着する仕様のため。(白インクがない部分には糊パウダーが付着しません。)
また、デザインが白色の箇所もこのタイミングで印刷されます。
基本的には糊パウダーを付けるための工程ですが、白インクがデザインの下地になることで、黒や紺などの濃い色の生地でもキレイにプリントできるという効果もあります。
糊パウダーをデザインの上に振りかけます。
フィルムに残った不要な糊パウダーは、フィルム裏側にプロペラ羽根を当てるなどして(ここは機械によって変わります。小型の機械であれば指で弾くなど)弾き落とします。
弾き落とされた糊パウダーは印刷後に回収し、別の印刷で再利用できるので無駄になりません。
デザイン部分のみにしか糊が付かないため、転写印刷で面倒な「カス取り」が不要な点もポイントです。
デザインに糊パウダーが付着したフィルムを乾燥機に入れて、糊とインクを乾燥(硬化)させます。
STEP5までで、デザインと糊の付いた「転写フィルム」ができ上がりました。
ここから先は従来の転写印刷と同じく、プレス機(物によってはアイロンでもOK)でグッズに熱圧着して印刷します。
温度は、印刷対象のグッズや糊の種類にもよりますが110〜150℃あたりが目安。
圧力はそれほど重要ではなく、デザイン全体が素材に対して均一に温度をかけられればOKそうです。逆に印刷面が凸凹していたり曲がっていたりすると温度が不均一になってしまうので、うまく印刷できません。
プレス時間は10秒が目安で、その後グッズを冷まします。
グッズが十分に冷めてからフィルムを剥がし(デザインがグッズに移っていれば成功)、デザインを定着させるためにもう一度5秒間のプレスを行います。
このときデザインがプレス機に付いてしまわないよう、適当な紙(私は離型紙を使っていますが、特に指定はないようです)をデザインの上にのせてからプレスします。
尚、日本国内でDTFプリンターを購入できるところは、私の知る限り以下の3社です。(2022年3月時点)
プレス機の温度条件など細かい部分に差はあるようですが、基本的な原理・手順は上記で説明したとおりです。
DTFプリンター
DTFプリンターの例として、松井色素化学工業所(販売元:株式会社アステム)の「ARTJET」を載せておきます。
画像右側より、上記のSTEP②〜④が実行されるイメージです。
大きさは、全長約3.3m(デザインをプリントする部分からフィルムを回収する部分まで)× 幅約1.8m。
インクジェットプリンターなどに比べればかなり大きめ。これにプレス機も必要となるので、導入にはある程度のスペースが欲しいところです。
DTFプリントのメリット・デメリット
- 版が不要で、小ロットでも対応しやすい。
- フルカラーに対応でき、グラデーションも鮮やかに印刷できる。
- 繊細なデザインでも縁なしで仕上げられ、シール感が出にくい。
- コットンや不織布、ポリエステル、紙、ビニールなど、幅広い素材に印刷できる。
- 「カス取り」が不要で手間が少なく、転写シートをカットするプロッターも不要。
- 熱プレスが必要なため、基本的にフラットな素材にしか印刷できない。
- ラバーやプラスチックなどの素材では「プレス跡」が残ることがある。
- デザインの転写と糊付けを一度に行うため、機械が大きく場所をとる。
- インクと糊の乾燥が必要なため、電気代が高い。
- 普段のメンテナンスが割と面倒。(ヘッドおよびヘッド周りの掃除 & 糊パウダーの回収作業)
DTFプリント試作品
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今後の展望
まだ世に出て日の浅いDTFプリンター。
実際に取り扱っている業者も情報も少なく、それなりの設備投資も必要ですが、最新というだけあってその品質は他の印刷技術を凌駕するもの。
プレスの都合上、基本的にフラットな素材に限られるという弱点はありますが、他の転写方法に比べると作業効率はよく、コストダウンも狙えます。
近い将来、「シャツやバッグなどのフルカラー印刷ならDTFプリント!」と呼ばれる日も来るのではないでしょうか?
本ブログでは、引き続きDTFプリントの情報についてシェアしていきたいと思います!