データベースから欲しい情報(レコード)を取り出すRepositoryには、find()
やfindBy()
といったメソッドが備わっています。以下記事で紹介したとおり、特にfindBy()
は使い勝手がよく、これで十分な場合も多々あります。

ただ、検索条件を複数設定したり、あいまい検索(キーワードを含むものすべてを検索)したりというような場合には、さすがにfindBy()
だけでは使い勝手が悪くなってしまいます。
そこで本記事では、Repositoryを拡張(オリジナルメソッドを作成)し、より細かな条件でレコードを取り出す方法を紹介します。
デバッグモードを設定しておくと、エラーが起きたときに詳細情報が表示されるようになります。
エラー箇所を探しやすくなるので、開発前に設定しておくのをオススメします。
デバッグモードの設定方法については 以下記事 で解説しています。
カスタマイズ後は、デバッグモードの解除を忘れないように。
まずはRepositoryを新規に作成する
EC-CUBE(Symfony)でデータベースから特定のレコードを取り出すには、取り出したいレコードが保存されているテーブルに対応したRepositoryを使います。
商品テーブルのようなデフォルトで用意されているRepositoryは「src/Eccube/Repository」下にまとめて保存されていますが(ProductRepository.phpなど)、src下のファイルには直接修正等加えない方がよいので、「app/Customize/Repository」下に以下のようなRepositoryファイルを新規作成します。
EC-CUBEのバージョンによってコードが異なります。(4.2以降ではResistoryInterface
が使えず、ManagerRegistry
を使います。)
【EC-CUBE 4.0 / 4.1】のRepositoryファイルはこちら
<?php
namespace Customize\Repository;
use Eccube\Entity\Product;
use Eccube\Repository\AbstractRepository;
use Symfony\Bridge\Doctrine\RegistryInterface;
/**
* CustomProductRepository
*/
class CustomProductRepository extends AbstractRepository
{
public function __construct(RegistryInterface $registry)
{
parent::__construct($registry, Product::class);
}
}
【EC-CUBE 4.2以降】のRepositoryファイルはこちら
<?php
namespace Customize\Repository;
use Eccube\Entity\Product;
use Eccube\Repository\AbstractRepository;
use Doctrine\Persistence\ManagerRegistry as RegistryInterface;
/**
* CustomProductRepository
*/
class CustomProductRepository extends AbstractRepository
{
public function __construct(RegistryInterface $registry)
{
parent::__construct($registry, Product::class);
}
}
ベースとなるシンプルなRepositoryファイルです。(こちらは商品テーブルに紐づくRepositoryです。必要に応じてEntityなどを変更してください。)
ここで作成したCustomProductRepositoryクラスに、オリジナルの検索条件をもつ新しいメソッドを追加していきます。
Exprクラスを使って複雑な検索条件を設定する
Expr
クラスは、QueryBuilder
で条件式を作成する際に使用され、SQLの演算子をクエリに組み込むために便利なメソッド:eq
(等価)、neq
(非等価)、lt
(小なり)、gt
(大なり)などの比較演算子を、簡単にクエリに組み込むことができます。
Exprクラスの基本的な使い方
下記コードは、引数に「商品名」を指定するとそれに合致したレコードを返してくれるメソッドです。
public function findByName($value)
{
// QueryBuilderインスタンスの作成
$builder = $this->createQueryBuilder('p');
// where条件の指定
return $builder
->where($builder->expr()->eq('p.name', '?1')) // eqを使って比較式を作成
->setParameter(1, $value) // プレースホルダーに値をセット
->getQuery() // クエリを取得
->getResult(); // 実行して結果を取得
}
$builder = $this->createQueryBuilder('p');
-
まず
createQueryBuilder()
メソッドを使用して、クエリを組み立てるためのオブジェクトQueryBuilder
を作成します。'p'
はProductエンティティの別名(エイリアス)で、以降のクエリの中でp
を使ってフィールド名を指定できるようになります。 ->where($builder->expr()->eq('p.name', '?1'))
-
次に、
where()
で検索条件を指定します。ここではexpr()
メソッドを使い、Expr
クラスのインスタンスを取得します。これにより比較演算子が使えるようになるので、eq
(等価を意味する演算子)を使ってname
フィールドが?1
と等しいという条件eq('p.name', '?1')
を作成します。これにより、以下のSQLと同じ動作をすることになります。SELECT * FROM product p WHERE p.name = ?
->setParameter(1, $value)
-
?1
に$value
をセットします。(SQLでいうプリペアドステートメントと同じ仕組み)?1
ではなく、以下のように名前付きプレースホルダー(:name
) を使うこともできます。->where($builder->expr()->eq('p.name', ':name')) ->setParameter('name', $value)
->getQuery()->getResult();
-
最後に、
getQuery()
で最終的なクエリオブジェクトを取得し、getResult()
でクエリを実行 → 結果を取得します。
慣れないとちょっとややこしいかもしれませんが、この型さえ掴めれば、あとは検索したい条件に応じたexpr
のメソッドを呼び出すだけです。(Expr
クラスがもつ代表的なメソッドは次項の通りです。)
Exprに用意されている主なメソッド一覧
前項の->where($builder->expr()
に続くメソッドを以下の通り変えることで、色々な条件で検索できるようになります。
- 値が等しい
-
eq( フィールド名, 値 )
- 値が異なる
-
neq( フィールド名, 値 )
- 値より小さい
-
lt( フィールド名, 値)
- 値以下
-
lte( フィールド名, 値)
- 値より大きい
-
gt( フィールド名, 値)
- 値以上
-
gte( フィールド名, 値)
- あいまい検索
-
like( フィールド名, 値)
- 複数検索
-
in( フィールド名, 配列)
あいまい検索
like()
メソッドを使うことで、「ある文字列の一部を含むデータ」を検索できます。
public function findByLikeName($value)
{
$builder = $this->createQueryBuilder('p');
return $builder
->where($builder->expr()->like('p.name', ':name')) // LIKE検索条件
->setParameter('name', '%' . $value . '%') // ワイルドカードを含める
->getQuery()
->getResult();
}
%
はワイルドカードと呼ばれ、ここにはどのような文字(1字でも複数でも可)も当てはめることができます。この例では %$value%
となり、メソッドの引数に指定した値が含まれるすべてのレコードを検索し、取得できます。
%
の例'%りんご%'
-
「りんご」を含む(前後に何かがあってもOK)
'りんご%'
-
「りんご」で始まるもの
'%りんご'
-
「りんご」で終わるもの
複数検索
IN()
は SQL の IN
句と同じ動作をし、指定した複数の値のどれか1つでも一致すれば検索結果に含まれます。
public function findByNames(array $values){
$builder = $this->createQueryBuilder('p');
return $builder
->where($builder->expr()->in('p.name', ':names')) // `in()` で複数検索
->setParameter('names', $values) // プレースホルダーを使って配列を渡す
->getQuery()
->getResult();
}
例えば $values = ['りんご', 'バナナ', 'みかん']
の場合、次のような SQL が実行されます。
SELECT * FROM product p WHERE p.name IN ('りんご', 'バナナ', 'みかん')
条件を複数設定する(AND / OR)
「andWhere」または「orWhere」を用いることで、条件を複数設定できます。
andWhere(AND検索)
設定した条件すべてに当てはまるもののみを検索します(AND検索)。
where( 条件, 値 ) -> andWhere( 条件, 値 )
whereに続けてandWhereで条件を追加します。andWhereは複数追加してもOKです。
以下は、「第一引数以上のID かつ 第二引数以下のID をもつ商品レコード」を検索するメソッドです。
public function findByIDs($value1, $value2)
{
$builder = $this->createQueryBuilder('p');
return $builder
->where($builder->expr()->gte('p.id', ':id_min'))
->andWhere($builder->expr()->lte('p.id', ':id_max'))
->setParameters([
'id_min' => $value1,
'id_max' => $value2
])
->getQuery()
->getResult();
}
orWhere(OR検索)
設定した条件のいずれかに当てはまるものを検索します(OR検索)。
orWhere( 条件, 値 ) -> orWhere( 条件, 値 )
orWhereを複数設定することで、検索条件を追加できます。
以下は、「第一引数の値に合致するID または 第二引数の値に合致する名前 をもつ商品レコードを検索する」メソッドです。
public function findByIDOrName($value1, $value2)
{
$builder = $this->createQueryBuilder('p');
return $builder
->orWhere($builder->expr()->eq('p.id', ':id'))
->orWhere($builder->expr()->eq('p.name', ':name'))
->setParameters([
'id' => $value1,
'name' => $value2
])
->getQuery()
->getResult();
}
レコードの取得順を変える(orderBy)
「orderBy」を用いることで、レコードの並び順を昇順(ASC)か降順(DESC)に指定できます。
orderBy( フィールド名, 並び順 ) -> addOrderBy( フィールド名, 並び順 )
第一引数に基準となるフィールド名、第二引数に並び順(ASC / DESC)を指定します。
また、並び順を追加したい場合はaddOrderByを使います。
以下は、「商品レコードをすべて取得し、IDの大きい順(降順)で並べ替える」というメソッドです。
public function findAllSorted()
{
$builder = $this->createQueryBuilder('p');
return $builder
->orderBy('p.price', 'ASC') // 価格の昇順
->addOrderBy('p.id', 'DESC') // 同じ価格ならIDの降順
->getQuery()
->getResult();
}
レコードの取得範囲を変える(setFirst / setMax)
「setFirstResult」でレコードの取得開始位置を、「setMaxResult」で取得する最大レコード数を指定できます。
setFirstResult( 整数 ) -> setMaxResult( 整数 )
setFirstResultの第一引数に0を指定すると1番目、1を指定すると2番目のレコードから取得されます。
setMaxResultは、指定された値の数だけレコードを取得します。(足りない場合はその数まで。)
以下は、「商品レコードをすべて取得し、2番目から4番目のレコード(計3つ)を検索する」メソッドです。
public function findSome()
{
$builder = $this->createQueryBuilder('p');
return $builder
->orderBy('p.id', 'ASC') // 取得順を指定
->setFirstResult(1) // 2番目から取得(0が1番目)
->setMaxResults(3) // 計3件取得
->getQuery()
->getResult();
}
取得するレコードの数が膨大になる場合、負荷を低減するためにこのメソッドを使うと良いでしょう。
まとめ
以上、データベースからレコードを取り出すための条件設定について、Expr
の使い方を中心に解説しました。
ちなみに、Expr を使わずに where('p.id >= :id')
のように直接条件式をテキストで記述する方法や、DQL(Doctrine Query Language)を利用する方法もあります。ただ、SQL に慣れていない方には少し難しく感じるかもしれません。まずは EC-CUBE(Symfony)独特の機能である Expr を活用 して、クエリビルダーの使い方に慣れてみてください!
