クレデンシャルスタッフィング
Credential Stuffing
概要(サマリー)
クレデンシャルスタッフィングとは、どこかで漏れた ID とパスワードの組を、別のサービスへそのまま自動で試す攻撃である。
合鍵の束を、何軒ものドアに順番に差し込むようなものだ。
鍵を新しく削るのではなく、すでにどこかで手に入った組を使う。
パスワード認証を、同じパスワードの使い回しがある前提で破ろうとする。
日本では「パスワードリスト攻撃」とも呼ばれる。IPA の「情報セキュリティ10大脅威 2026」でも、個人向けに「インターネット上のサービスへの不正ログイン」が11年連続で選ばれている。
詳細解説
漏れた組を、別の店で試す
あるサービスのデータベースから、メールアドレスとパスワードの組が流出することがある。
利用者の多くは、別の店でも同じメールアドレスと同じパスワードを使う。
攻撃者はその組を、SNS、通販、メール、会社のクラウドなどへ自動でログイン試行する。
OWASP は、この手口をブルートフォースの一種に含めつつ、狙いを分けて説明している。
ブルートフォース攻撃は、1つのアカウントに多くのパスワード候補を試す。
クレデンシャルスタッフィングは、すでに漏れた「ID とパスワードの組」を、他のサイトへ試す。
パスワードスプレー攻撃とも違う。
スプレーは、よくある少数のパスワードを多数のアカウントへ試す。
スタッフィングは、被害者本人がその組をどこかで実際に使っていた、という点が出発点である。
組の入手元は、一つの漏えいだけではない
大規模な漏えい事件の一覧が、この攻撃の材料になる。
それに加え、パソコンに入り込んでブラウザの保存パスワードやログイン情報を盗むインフォスティーラーの情報も、同じ用途で使われる。
自分は有名サイトに登録していない、と思っても、メールアドレスを ID にしているサービスが一つ漏れると、他のサービスへの試行材料になる。
漏えいのニュースを見ていないサービスでも、ログインが試されることがある。
成功したあとに起きること
ログインできたアカウントでは、保存されたカード、個人のメッセージ、社内のファイルが読まれる。
そのアカウントから、取引先へ偽の案内を送ることもある。
通販やポイントのように、残高があるサービスでは、勝手な購入や換金の被害になる。
会社のメールに入れると、後から二要素認証の設定を変えられ、本人が入れなくなることもある。
一つの成功が、別のサービスへの足がかりになる。
使い回しをやめ、通知を見る
サービスごとに違うパスワードにする。
覚えきれない場合は、パスワード管理の仕組みを使い、人が同じ文字列を使い回さないようにする。
たとえば、Apple の「パスワード」アプリ、Google パスワードマネージャー、1Password、Bitwarden などがある。
これらはサービスごとに長いパスワードを作って保存し、使い回しや漏えいの警告を出せるものが多い。
漏えいしたパスワードの一覧と照合し、該当するものは使わせない、という対策をサービス側が行うこともある。
利用者側でも、Have I Been Pwned のようなサービスで、自分のメールアドレスが過去の漏えいに含まれていないかを調べられる。
見つかった場合は、そのメールアドレスで使っていたパスワードを、サービスごとに別のものへ変える。
パスキーや、フィッシングに強い多要素認証は、漏れたパスワードだけではログインを完了させにくくする。
OWASP も、多要素認証を主要な対策として挙げている。
ログインの通知が来たら、自分の操作か確認する。身に覚えがなければ、そのサービスでパスワードを変える。
作る側が見るポイント
ログイン画面に、失敗回数の制限や、自動操作らしいアクセスの検知を入れる。
ただし制限だけでは、組が最初の一回で当たる場合を止められない。
パスワードの使い回しを利用者に頼らず、多要素認証を用意する。
利用者向けには、新しい端末からのログインを通知する。
通知文に、パスワードそのものや、リセット用の秘密を書かない。
通知が来たら、メールのリンクから入らない
「新しいログインがありました」という連絡が、本物のサービスから届くことがある。
その文面のリンクを開くと、確認のつもりが別の偽サイトになる場合もある。
通知を見たら、文面のリンクではなく、公式アプリや自分で登録したブックマークからログインする。
そこで身に覚えのない端末や国からのログインがあれば、パスワードを変える。
セッションを他の端末から切れるサービスなら、それも行う。
変更したパスワードは、他のサービスへコピーしない。コピーした瞬間に、次の使い回しが始まる。
AIコーディングとの関係
AI にログイン機能を作らせると、メールとパスワードだけの画面が提案されやすい。
AI には「パスワードの使い回しを想定し、多要素認証と、身に覚えのないログインの通知を含めた設計にしてください」と頼む。
漏えいパスワードのサンプルや、本物の利用者一覧を AI に貼って検査させない。
検査が必要なら、件数や形式だけを伝え、値はローカルの道具で扱う。
AI が生成したログイン処理のコードは、失敗時のメッセージが「このメールアドレスは登録されていません」のように、登録の有無を教えていないかも確認する。
「メールアドレスまたはパスワードが違います」とまとめて返すと、攻撃者は有効な ID を絞り込みにくくなる。
よくある勘違い
強いパスワードなら、使い回しても大丈夫?
長さや複雑さは、推測への強さである。
一度どこかから漏れた組は、強さに関係なく、別のサービスでそのまま試される。
強さと、使い回さないことは両方必要である。
自分は被害に遭ったサイトを使っていない?
メールアドレスを共通の ID にしていると、別のサービスの漏えいが、こちらのログイン試行に使われる。
使っていないサービス名のニュースでも、同じメールアドレスなら確認する価値がある。
二要素認証があれば、試行そのものが来ない?
二要素認証は、パスワードが当たったあとのログイン完了を難しくする。
試行がゼロになるわけではない。承認の求めや、見慣れないログイン通知は、確認の対象になる。
まとめ
- クレデンシャルスタッフィングは、漏れた ID とパスワードの組を、別のサービスへ試す攻撃である。
- 一つのアカウントを総当たりするブルートフォースや、よくあるパスワードを広く試すスプレーとは出発点が違う。
- サービスごとにパスワードを変え、パスキーや多要素認証を使う。
- 身に覚えのないログイン通知が来たら、そのサービスでパスワードを変える。
情報ソース
- OWASP:Credential stuffing(英語)
- OWASP Cheat Sheet:Credential Stuffing Prevention(英語)
- MITRE ATT&CK:Credential Stuffing(T1110.004、英語)
- IPA:情報セキュリティ10大脅威2026
- Have I Been Pwned(漏えい確認サービス、英語)
より詳しくAIに聞いてみよう
- クレデンシャルスタッフィングを、合鍵の束を何軒ものドアに試す例で説明してください。
- ブルートフォース、パスワードスプレー、クレデンシャルスタッフィングの違いを表に整理してください。
- パスワードをサービスごとに変える方法を、初心者向けに比較してください。
- AI にログイン機能を作らせるとき、使い回しを想定した指示文を書いてください。
- 本物のパスワードを AI に貼らずに、認証の設計だけを相談する聞き方を教えてください。